死因贈与の履行請求を一部認めることで他の相続人との間の紛争まで解決させた事例

事例の概要

20年以上も前に作成された金庫内に貼られたメモに基づき「死因贈与(契約)」などとして2500万円近くを長女のみに請求してきた、亡父の愛人に対して、その4分の1弱を解決金として支払うことと引換に亡父の相続に関する他の相続人に対する請求も含め全ての請求を放棄させることに成功した事例

◆相談者:Yさん(40代)(女性)

◆相手方:Xさん

ご依頼の背景

Yさんの実父であるNさんは、50年来に亘り、飲食店を経営し、一時は経済的にも成功を収め、資産も多額にのぼりました。ところが、仕事に忙殺されていたこともあってか、その成功と引き換えにYさんの実母である妻とは、一般的に円満と言える家庭生活を送ることが難しく、愛人Xをつくり愛人宅に泊まって自宅に帰って来なくなるようになり、結果、妻とは離婚するに至りました。

しかし、妻とは離婚後も店舗経営上は共同経営者として円満な関係を続けていました。その反面、上記愛人Xとは、結局、別れた妻ほどの信頼関係を築けなかったのか、最後まで婚姻(入籍)することはありませんでした。

そして、現在からちょうど3年前、にNさんが死亡し、Yさんをはじめ6名の子がNさんの相続人として各種遺産等についての相続手続きをしておりました。

ところが、遺産の整理をしていた最中にXから、自宅に置いてあったNさんが使用していた金庫内に貼ってあった紙に殴り書きメモのようなもので、「2500万円をXに渡すこと」を指示するかのような記載があったので支払ってほしい、と突然の連絡が来ました。余りにも唐突な要請であったことや記載されていた紙が殴り書きの1片のメモのような紙に過ぎなかったことから、Yさんは当然、これを断りました。

その後もXから執拗に同じ要求があったので、当職らも含め何人かの弁護士にYさんは相談しましたが、いずれも取り敢えず支払う必要はないとのアドバイスだったことから支払いを拒んでいたところ、Xから裁判所に「死因贈与契約」に基づく(受贈金の)請求として提訴され、当職が依頼を受けて訴訟代理人に選任されました。

解決までの経緯

1.上記依頼を受けて、当職は提訴の当初より「死因贈与」を原因としているにもかかわらずYさん以外の他の相続人を被告としていない点については、単純に疑問に感じていたのですが、Xが他にも諸々の請求原因を並べていたこともあり、この点は取り敢えず置いておいて、「死因贈与契約」の成立自体認められない、という点に注力して訴訟上の対応をしていました。メモ片の紙きれだったこともあり、当初は裁判官も「死因贈与契約」の成立を認めるのは難しそうな心証を抱いていました。

ところが、上記家族間での経緯についてX側が主張・立証していくうちに、Nさんは、別れた妻ほどではなかったものの、同人との離婚後、生活面や仕事面の様々な点で世話になったXに対し、財産的な手当てをそれなりにしてやろうと考えてはいたこと、それでも最後まで入籍することまではしなかったこと等が判ってきました。そのため、裁判官も、あくまで和解勧試という形ではありますが、解決金をいくらか支払うことでの和解をYさん側が強く勧められるようになりました。

2.問題はその金額でした。仮に本件請求額2500万円が全額「死因贈与」であるならば、本来のYさんの負担額は少なくともその法定相続分である6分の1、すなわち416万6666円と訴訟(=法律)上はなるはずです。しかし、Xは、この金額ではどうしても和解には応じないと頑固に反対し続けました。当職も裁判官も、恐らく相手方代理人も、このXの説得が最も難しかったものと思われます。

3.そこで当職は、Yさんに対する本件訴訟の請求額を超えた解決策を考え出しました。すなわち、仮に本件訴訟だけなら、最大でも上記416万6666円を支払えばYさんは法律上の義務は免れる、しかし、後日、Xがその気になれば、Yさん以外の他の相続人の誰かないし全員に対し、今回と同じ訴訟を提起して、1人あたり416万余円まで請求してくる可能性がありました。仮にそれを防ぐことができるのであれば、Yさんは上記自己負担分である416万余円を超えた金額をXに対して支払っても、少なくとも「損をした」とまでは言えないのではないか、と考えたのです。

4.実は、上記3の発想が生まれるまでには、Yさんが亡Nさんの相続間での遺産分割において、実は遺産のほぼ全てをわずかな代償金の支払と引換に取得できていたことを当職も相談されて知っていた、という伏線があったのです。他の相続人らも上記遺産分割により亡Nさんの遺産問題は全て解決していると考えているでしょうから、そこへ突然Xから本件のような訴訟を提起されることは全く予想もしていないし、望んでいないであろう状況にありました。

5.結局、上記の発想どおりに、Xが他の相続人に対して、Nさんの相続に関しては今後一切の請求をしないことを和解条項中に入れることと引換に、解決金を184万円ほど上乗せする(=解決金総額600万円)ことで和解を成立させることが出来ました。

6.今回の解決法は、訴訟であるにもかかわらず、Yさんにとっては、本来の訴訟上の請求を超えたものまで和解条項中に取り込んでの和解解決ということになったわけですが、本件訴訟だけでなく、本件紛争を全体的に俯瞰できた結果、結局Yさん以外の他の相続人へ、ないしは各相続人間の紛争ないし提訴の循環を未然に防ぐことができた、比較的合理的な解決だったものと思われます。

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