遺産分割問題解決の流れ
さて、相続が発生して、遺産分割を行う場合、大きく分けると2つの流れがあります。
相続発生
→遺言書がある場合 原則として、遺言書に沿って処理されます。
→遺言書がない場合 相続人間で、遺産分割協書を作成して処理されます。
(1)遺言書がある場合
①遺言書が有効か?被相続人の遺言がある場合は、原則として、遺言書に沿って相続手続を行います。
しかし、遺言書に不備があったり、本人が書いたものがどうか確認できない場合などには、遺言の効力が認められないことがあります。
すなわち、その形式(例:署名が被相続人のものと違う!等)に疑いがあったり、内容(例:被相続人はこんな内容の遺言を遺すわけがない!)に納得がいかない場合には、専門家である弁護士に、まずはご相談ください。
なお、公正証書遺言とは異なり、自筆証書遺言の場合、例えば遺言書に基づき不動産登記手続をしようとするためには、家庭裁判所で遺言書の検認という手続を経る必要があります。
この検認手続は、遺言書の有効・無効を決める手続では決してないのですが、通常は、被相続人の死亡後、それ程時間も経たない時点での遺言書の状態(封がされているか否か、紙や用いられた筆記具や署名・押印の有無・状態等の形式面)について、公の手続の下に記録しておく手続ですから軽視もできません。
あと、この検認手続への出頭と立ち合いを各相続人に求めるべく家庭裁判所から呼出状が送られて、希望する相続人は家裁へ出頭し、上記遺言書の状態等を現認することになります。
遺言書が存在する場合には、この検認手続が通常、相続問題解決のための一里塚になっていくものですから、できれば、この段階から専門家である弁護士が手続に関与していくことが望ましいです。
② 有効な遺言書によって遺留分を侵害されている場合
例えば、兄弟が3人いるのに「長男に全てを相続させる」というような場合には、他の兄弟2人は、遺留分を侵害されることになりますので、長男に対して遺留分減殺請求を行うことができます。
この場合に、遺留分がどれ程侵害されているのか、については、厳密には、遺産総額や相続債務、生前贈与等の各要素を調査した上で計算しないと判明しません。
しかし、次の一点だけは、十分に注意することを要します。
すなわち、仮に遺言によって遺留分が侵害されている場合でも、減殺請求するには期限があります。この期限を過ぎて放置すると、請求が認められなくなりますので、ご注意ください(詳しくは「遺留分減殺請求」のページへ)。
(2)遺言がない場合
被相続人の遺言がない場合には、法律によって定められた相続人(法定相続人)全員による、遺産分割協議が必要で、協議がまとまった場合には同協議書を作成することになります。
遺産分割協議書がなければ、被相続人の財産を(厳密には法定相続分と異なる割合ないし相続分で)相続する手続きを行うことができません。
例えば、法定相続分と異なる内容の場合、銀行等金融機関によっては預金を解約できないことになりますし、不動産等の登記手続きもできません。
この場合、協議ができない後の遺産分割の流れは次のようになります。
① 相続調査→(まずは)② 遺産分割協議→(無理なら)③ 遺産分割調停→(不成立なら)④ 同審判(=家裁により言渡)→(相手方が履行してくれないなら)⑤審判に基づいて強制執行
⑥(補足)相続に関する各種訴訟(主として前提ないし先決問題)
①相続調査
遺産分割協議に当っては、相続人(法定相続人)と相続財産の確定が必要です。
ⅰ 法定相続人の確定
具体的には、被相続人の出生時から死亡時までの戸籍関係を全て取り寄せます。
我が国の戸籍関係は、諸外国と比べて非常に正確に作られているので、戸籍上に記載されている配偶者や子供、(または親、兄弟などの場合も)を法律の認める相続人すなわち法定相続人として扱えば、まず真実と合致している蓋然性が高いからです。
あと、各相続人の戸籍謄本や被相続人の住民票の除票等も収集します。
各相続人の同一性判断のために本籍地等の確認が必要で、かつ、被相続人の最後の住所地は、例えば調停を申し立てる際の管轄の基準等になるからです。
☆法定相続人の調査・確定は重要です!!☆
なぜなら、仮に遺産分割協議終了後に新たな相続人が見付かった場合、協議は必ず相続人全員で行わなければならないことから、折角、協議が成立して作成した遺産分割協議書も無効になってしまうからです。
ⅱ 相続財産の確定
具体的には、預金や証券会社預かり株式等の死亡時残高を確認したり、最後の居住自治体から名寄帳を取り寄せるなどして死亡時所有不動産の確認等をします。
そして、判明した遺産について相続財産の目録を作成します。
★相続財産の調査・確定も重要です!!★
なぜなら、仮に遺産分割協議終了後に新たな相続財産が見付かった場合、その財産の重要度によっては、場合によっては、折角、協議が成立して作成した遺産分割協議書も無効になってしまう可能性があるからです。
しかし、上記の相続人の確定の場面と異なり、相続財産のうちの一部が欠けていたとしても、それだけで、遺産分割協議ないし協議書の全部が無効となってしまうわけではありません。
欠けている一部を除いても遺産に関する協議内容として十分に意味を持つ場合には、遺産の一部に関する分割協議ないし協議書として有効です。
この点が、上記相続人の確定の場合と異なります。
上記のⅰ相続人の確定の場面でも、ⅱ相続財産の確定の場面でも、漏れがあったりする可能性がある等、少しでもご不安がある場合は、あらかじめ、専門家である弁護士に相続調査を頼んだほうが良いでしょう。
②遺産分割協議
相続調査によって、相続人と相続財産が確定したら、遺産分割協議を行います。これは、相続人間での話し合いです。話し合いがまとまった場合は、その内容にもとづいて、遺産分割協議書を作成し、これによって相続手続を行います。
③遺産分割調停
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることになります。調停とは、簡単に言うと、調停委員を仲介者とした交渉です。調停になった場合は、双方に弁護士がつく場合も多いです。
もちろん必ず成立する保障があるわけではありませんが、調停委員という第三者を介することで、それまでまとまる兆しすらなかった交渉がまとまり調停が成立する場合も多いです。
この場合、当然と言えば当然ですが、専門家である弁護士が代理人として就任し活動することにより、より早くかつ手間もかけずに双方の落とし所を見い出して調停成立に至る確率が、弁護士が就任しない場合よりは格段に高まることだけは確かです。
これは、弁護士が交渉のプロとしての訓練を受け、かつ日頃から研鑽を積んでいることによります。
④審判
調停が不調(不成立)になった場合、審判の手続きに移行します。審判では、裁判官が、双方の主張を聞いた上で、審判を下します。審判に不服がある場合は、2週間以内に抗告する必要があります。
⑤審判に基づく強制執行
上記④の審判が下されたにもかかわらず、相手方によって、その履行がなされない場合には、やむを得ず相手方の持つ資産に対して強制執行をしていくことになります。
この場合、強制執行の対象財産の選択や優先順位等について、やはり専門的な知識ないし技術が必要な面がありますので、是非、弁護士にご相談下さい。
⑥(補足)遺産分割の前提となる法定相続人の範囲や、相続財産の範囲、遺言の有効性などに関して争いがある場合は、調停などで話し合いを重ねても、真実が判明しないことが多く、かつこれらは遺産分割のための前提ないし先決事項と言えますから、これが決まらなければ話し合いも永遠に平行線を辿ることになってしまいます。
そこで、これら前提ないし先決事項について決着を着けるためには訴訟を提起する必要があります。訴訟の場合は、殆どの場合、双方に代理人の弁護士が就くことになります。
ポイント
遺産分割を行う場合、特に揉めている場合や、揉める可能性がある場合は、上記の最終解決までの全体像を見越した上で、その時々における最適な方法を考える必要があります。
話し合い交渉で解決するほうが有利になるのか、調停申立や訴訟提起をした方が良いのか、あなたの状況によって、ケースバイケースです。
弁護士にご相談いただく場合には、当然ですが、これらの全体像を踏まえてあなたに最適な解決方法をアドバイスさせて頂きます。